介護現場のハラスメント

今や、「〇〇ハラスメント・〇ハラ」という言葉は世の中に溢れています。個人的には「えっ?それまでハラスメントっていうの!?」と思わず苦笑してしまうものまであります。ただ、笑っていてはいけません。
ハラスメントは、発信者側の意図に関わらず相手が受け止めた時点で成立します。
少なからず相手方に「不快感」や「ストレス」を与えてしまっているという事実を認識しなくてはいけません。
私自身、ハラスメントに関する研修を度々受講してきました。その中で毎回共通するメッセージとして挙げられるのは、『自分は関係ない』と思っている人ほど加害者になっていたという事例が圧倒的に多いという事です。

加害者・被害者にならないためにはどのようにすればよいでしょうか

数多くあるハラスメントの中からパワハラについて考えていきたいと思います。
パワハラ加害者の傾向として仕事がよくできる、評価の高い人は要注意です。仕事が良くできる人ほど、相手にも自身の高い基準を求めてしまいがちになるからです。
また、第三者からの抑制が効きにくい環境も働きます。仕事上の評価が高いため、多少強い態度が出てしまっても、『あの人は厳しい人だけど、よく仕事をしている・仕事ができる人だから・・・』と周囲が黙認してしまうことです。

ハラスメントは当事者のみならず、周囲も巻き込んでしまいます。職場の雰囲気の悪化にとどまらず、注意したいまわりの職員のモチベーション低下や、目の前の利用者様にも影響します。

特に高齢者介護の現場では、介護現場未経験の方が思われる以上に利用者様は敏感に空気を感じ取られます。例えば普段難聴で周囲の声に反応がしにくい方や、認知症により周囲の環境に興味が薄い方でも、往々にしてスタッフ同士のネガティブな感情の衝突は敏感に察知されます。

「介護現場での仕事がよくできる人=利用者様に良いサービスを提供したいと熱い思いを持っている人」でありながら、真逆の結果を招いてしまうケースがあります。

目の前の利用者様に楽しく快適に過ごして頂くためにも職員同士の関係性を健全に保つ必要があります。接遇は対お客様だけではありません。職員同士でも接遇に基づいた姿勢や会話も接客業である我々のスキルのひとつです。それを冷静にこなせるようにするためにも日頃からの関係性が問われます。

「私、忙しい時、集中してしまってつい口調がきつくなる時があるから、その時は注意してな~、声かけてな」と一言自分から伝えることで周囲との関係性は保たれます。

加害者にならない為、という理由もですが、自分自身が孤立しない為=自分の身を守るために有効な手段となるでしょう。

一方で被害者は只々、不運にもハラスメントを起こし得る先輩上司と巡り合っただけなのでしょうか?「被害者にも原因がある」という風潮を耳にすることが有りますが、それは間違っています。あくまでも加害者に問題はあります。ただし、加害者を生まない、自分が被害者にならないための工夫は必要ではないかと考えます。

指導を受けた後に何度も初めて聞いたかのように同じ質問をすれば指導者の心象を悪くします。まずは以前に指導を受けた方法を確認したり、自分の意見や考えた方法を伝えたうえで間違っていないかを確認することで状況は随分とかわってきます。

【A】「〇〇はどうするんですか?」
【B】「〇〇についてお聞きした方法は△△と思っていますが、間違いないでしょうか?」

事業所にはハラスメントの相談窓口が設置されています。ただし、その窓口に相談がある時点で、加害者側に被害者の訴えた内容を確認することになるため万事解決とならない事がほとんどです。

「なぜ会社・上司に言うのか、直接言ってくれたらいいのに」という心理が働き、当事者同士の人間関係が崩れていきます。相談窓口は必要でも相談が来る前で問題が解消される関係性が重要です。

常に「自身の言動を第三者に見られてもその言動は問題がない」と言い切れる自信と客観的に見る意識を持つことが大切です。

この記事を書いたのは

介護ライター。社会福祉士・ケアマネジャー。現在はデイサービスを経営する代表取締役社長。20年以上、介護老人保健施設に勤務。主に相談業務や施設運営に携わってきた経験。介護現場の実情や社員の教育から会社運営まで、幅広い記事を担当する。